企業が求めるPRパーソン

1990年2つ目の会社として入社、企業調査、金融機関への出向を経て経営コンサルタントに、その後2005年より2009年まで広報部長を務め現在は総務部長。「会社を変える広報、世の中を変える広報」をモットーに奮闘中!
2008年~2010年まで、日本パブリックリレーションズ協会理事、PRプランナー資格制度委員会委員長。

社名 : 株式会社 野村総合研究所
設立 : 1965年4月1日
資本金 : 186億円
従業員数 : 5711人(2008年3月31日連結ベース)
本社 : 東京都千代田区丸の内1-6-5 丸の内北口ビル
連結売上高 : 3,422億円(2008年3月期)

Q. 現在、野村総合研究所の広報部長として活躍されていらっしゃいますが、昨今の激変する環境のもと、広報の仕事を進める上で大切にしていらっしゃることは何ですか?

A. 激変期こそ広報・PRの時代

最近では、3ヶ月前のことが、あたかも数年前であるかのように企業を取り巻く経営環境は激変しています。その変化のスピードは恐ろしいくらいです。このよ うな時代における広報・PRの役割は非常に重要だと思っています。激変する環境に合わせて変化している自社の状況を、適時的確に社内外のステークホルダー に伝えていくことは、中長期的に会社の企業価値を高める上で非常に重要です。もちろん、一時的に企業価値を下げるような事象であっても、それを正しく伝え ていくことで、中長期的には企業価値を高めることにつながると思っています。隠すこと、嘘をつくことは決して許されることではありません。
こんな時代に求められるのは「広報」の前に「広聴」です。我々人間には口は一つですが、耳は二つあります。これは、口で話すよりも耳で二倍聴け、という言 われがあると聞いたことがあります。広報の仕事をしていると、この言われはとても良く理解できます。自分の言いたいこと、伝えたいことを唯我独尊で語ってばかりいても、聞き手であるマスコミやその先の生活者・消費者・顧客・取引先・株主、さらには身内であるはずの従業員でさえも聞く耳を持ってはくれません。聞きたいこと、すなわち求められていることが何だか分かれば、こちらとしてはあまり苦労することもなく広報活動が進められるわけです。まずは広聴することで、広報につながるテーマ、求められているコンテンツをしっかり把握することが大切だと思っています。
よく言われている「コミュニケーションスキル」とは、一に聴く力、すなわち相手サイドにたって話せる力。自己中心ではだめなんです。そしてその次に話す力、ということになります。


Q. では、広聴のために大切なことは何ですか?

A. 大切なのはフットワークと人脈、そして切り口

一つは、「フットワーク」良く活発に活動しまくること。数多く社内外の人に接していると、自分の会社に対する色々な見方が見えてきます。自社の見え方は人それぞれですが、たくさんのケースに触れていることで色々なアイデアが出てきます。

二つ目は「人脈」に対して常に渇望すること。マスコミの中に知り合いを増やすことはもちろんですが、他社で同じように広報の仕事している人とのネットワー クは非常に有意義です。広報のプロに自分の会社についてコメントやアドバイスをして頂けることは、この上なく有効です。何か困ったことが起こった時、社内 には広報のプロはなかなかいないものですから、他社の広報の方々とのネットワークは非常に重要です。日本パブリックリレーションズ協会の色々なイベントで出会った方々は私の大 きな財産になっています。これからは、私自身も恩返しとして他社の広報の方々にアドバイスができるよう、つながりを持っていきたいと思っています。

三つ目、これが一番難しいのですが、広聴の機会として会話・議論をしている時に、その相手から重要なことを聞き出す「切り口」です。アジェンダの設定とも 言われます。重要なステークホルダーとやり取りする際に、目的観なく、ゴールイメージもなく会話・議論を続けていても時間の無駄です。想定される5分、 10分、あるいは30分、1時間の中で取り上げるべきテーマを前もってしっかり準備しておくことが重要です。それによって、忙しいお互いの時間を有効に活かすことができ、高い成果をあげることができます。


Q.広報の仕事をしていく上で重要な資産、スキルはどんなことですか?

A.重要なのは、広い教養、広い人脈、そして応用力

広報とは一流の社会人として必要なもの全てが求められる仕事です。

1.まず、広い教養が必要です。会社代表として会社のあらゆることを知っているのは当然として、海外の人、外人との交流では日本企業の代表、あるいは日本の代表としてどんなことでも、何らかのコメントを語れることが必要になります。会社よりも業界、業界よりも社会、そして世の中全般、さらには文化のあり方や地球の行く末、人としての人生のあり方、などなど。。。求められる教養は限りのないものです。そして、自らの対応が会社を代表したり、場合によっては日本を代表したりするわけですから、当然そこには責任が発生します。強い責任感とともに当事者意識、さらにはバランス感覚も必要になります。

2.前にも言いましたが、人脈も重要です。広報するのはマスコミを通じるのはもちろんのこと、口コミも重要ですし。

3.さらに、応用力も重要です。基礎力が身についていると応用が効くものですが、表面的なルールや知識の丸暗記だけでは広報はできません。ルールやマナー、社会常識の根底にある理屈、道理までを理解することで、はじめて応用がきくことにつながります。表層的な知識の詰め込みだけでは広報はできません。


Q. 日本パブリックリレーションズ協会で資格試験を行っている「PRプランナー」の資格についてはどのようにご覧になっていますか?

A. PRプランナーは広報のプロ、社会人のプロとしての第一歩、大きな第一歩

PRプランナーは社会人として必要なスキルの第一歩だと思います。1、2次試験では、経営から広報・PRまでの幅広い知識を求められますし、3次試験では広報の実務能力も試されます。PRプランナーの資格を持っていれば、広報のプロとしての大きな第一歩といえるでしょう。これだけで決して必要十分ではありませんが、必要条件ではあると思います。私のような企業の広報の人間にとって、取材する側のマスコミの人がこの資格を持っていると、こちらの手の内も分かっているようで、とても手ごわいイメー ジにも映ると思います(笑)。また、PRプランナーの資格保有者同士の交流の場も用意される予定ですので、広い人脈構築の場にもつながると思います。若手・中堅の広報パーソンにとっては、非常に有意義な資格になると思います。


Q. 広報・PRの仕事をしている人、あるいは、これから広報・PRの仕事に就きたいと思っている人へのメッセージなど頂けますか。

A. 会社を変える広報、世の中を変える広報

広報の仕事をしていると、何事にも前向きな気持ちになれます。この仕事をしている人には明るい人、ポジティブな人が多いですよね。また、所属企業の広報をしながら、自分個人の広報をしていることにもつながるように思います。色々な人との接点も広がりますし、自分の新たな可能性がつかめるチャンスもたくさんめぐってくるように思います。最近では、社内広報を超えた「インターナルブランディング」も重要だと思っています。社員の価値観や動機付けをしっかりと高めていき、全社員が自分の会社に自信と誇りを持ち、一人ひとりが優秀な広報パーソンとして社外との接点においてしっかりとした広報活動を行っていけるようにすること。これも、重要な広報の仕事だと思っています。私の会社では、このような活動を「NRIウェイ」と呼んでいて、社員一人ひとりが、自分の会社、自分の仕事、さらには自分自身に誇りを持てるよう、様々な仕掛けを広報部が中心になって展開しています。このように、昨今の広報に期待されている活動は非常に幅広く、またレベルの高いことばかりです。非常に難しい局面に立つことも多いですが、会社を変える広報、そして世の中を変える広報、という問題意識をもっていつも前向きに捉えています。どんな会社、どんな組織においても、その中にはあふれんばかりのコ ンテンツはあるものです。それらを活かして世に提言することで世の中を変えることも可能です。私はそのような広報を「ナビゲーション広報」と呼んでいます。「会社を変える広報、世の中を変える広報」という高い志をもって広報活動を展開しているので、毎日が新しいことへの挑戦です。

 

※記事登録日:2009年9月